札幌市で50年続く老舗うどん店の夕張町への移転計画。
札幌中心部の高層ビルが立ち並ぶ土地を離れ、建主様が新天地に選んだ地は、
見上げずとも視界に広がる空、原生林、畑、雄大な山々...
北海道の美しさと厳しさが共存する場所でした。
「うどん」がもつ大衆性の表現。
そしてその普遍的な立場との差別化。
”土地に根差す土着的・素朴な佇まいで懐かしさを感じる空間” と、
”訪れる人に 期待 - 感動 - 余韻 を与える非日常的な空間”
この相反する事柄を約30坪の空間に創造しました。
フカガワ・ノーマライゼーション・ハウス
北海道の深川市に建つノーマライゼーションハウスのはなしです。
この住宅の設計にあたり建主様のご要望はご依頼くださった当初から
【 開放的な内部空間 + プライバシー保護 】というものだった。
お打合せを進めていく中でより詳細なご要望を伺い、以下の項目が上がった。
・室内外を車いすで自由に移動できる。
・どこにいても風景を見ることができる。
・寝室で過ごす時間も閉塞的にならず、程よい解放感を得られる。
建主様は日常生活で車いすを使用しており、かつ、日中も自宅で過ごすことが少なくない為、
共に暮らすご家族と同様に各々が自由に過ごすことができる空間が求められた。
導線の自由度や開放性に重点が置かれる計画となった。
また、内部と外部の関係性を考える上で
家の周りの風景が日々移り変わる様子をあらゆる方向から切り取り室内各所に落とし込む、
それは家で過ごす日々の中でひとつの豊かさになるのではと考えた。
こうして提案と修正を繰り返しながらできたカタチ。
長方形の内部空間に、廊下型とステージ型 形態の違う2つのテラスを差し込む。
性格の異なるテラスを使い分けることでひとつの家の中に様々なシーンが現れる。
[ 廊下型テラス ] は、
トップライトを設け、床から1.2mの低い位置を開放する。
そうすることで、1.2mの高さの開口とその前面に植えた植栽が外部からの視線を遮るとともに
十分な採光と植栽の緑を室内に取り入れることができる。
[ ステージ型テラス] は、
4.5m×6mの広々とした空間。
車いすでリビングからテラスに直接出ることが可能で、天候に左右されず過ごす。
大屋根を掛け、矩形のトップライトを不規則に並べることで影と光が混在する木陰のような空間とした。
テラスを囲むように配置した大きな庭はガーデニングが好きなご家族の要望で、
様々な種類の草花が室内へ四季の移り変わりを楽しむことができる。
リビング-ダイニング間を緩やかに遮りながらもテラスを介して視線を通す。
間接的に視線を通すことでお互いの存在は感じながらも個々の空間で各々自由な時間を過ごす。
外壁の仕上げは道南杉のシングル葺きと下見板張り。
荒々しい木の外観に対し、内部は漆喰塗りの白くおだやかな空間が広がる。
室内の床にも北海道産の栓材の無垢フローリングを用いた。
素足で歩くと木の温かみを感じられ、車いすでの移動も滑らず、
2匹の飼い猫たちにも居心地の良い素材を選定した。
玄関と車庫 両方向スロープでのアプローチとなっている。
車庫から直接玄関へ通じる導線を確保し、
玄関の段差については車いすでの昇降が可能な20㎜以下とした。
建具は、引戸を多用。
ハンズフリーで各室へ行き来することができる。
寝室の可動間仕切りを開放すると、
日中寝室で過ごす日でも光と植栽の緑が溢れる開放的な空間となり、
和室の障子を開放すると、
和室はリビングとの一体感が強調され、より広々とした空間となる。
生活のシーンに合わせて可変可能な空間と、それによって生まれる自由な導線計画。
柔軟な生活に繋がると考えた。
バリアフリーは、当たり前になってきている。
段差をなくしたり、手摺を設置したり。
ただ、わたしたちにとってもっと大切なことは、このように物理的なものだけではなく
住む人がこの先どんな生活を送り、何を楽しみたいかを想像し、共に考えることが大切なのだと、
この計画を通して改めて気づかされた。
廊下型テラス
ステージ型
テラス
寝室・コア
車庫
大屋根が雨や雪を防ぎ
トップライトからの光が
室内、テラス内に
木漏れ日のような
光を落とす。
テラスを介し
柔らかな朝の光を
寝室へ取り込む。
風の通り道
寝室への外部からの
視線を遮りつつ
緑を取り込む
庭の草花が室内へ
彩を与える