札幌市で50年続く老舗うどん店の夕張町への移転計画。
札幌中心部の高層ビルが立ち並ぶ土地を離れ、建主様が新天地に選んだ地は、
見上げずとも視界に広がる空、原生林、畑、雄大な山々...
北海道の美しさと厳しさが共存する場所でした。
「うどん」がもつ大衆性の表現。
そしてその普遍的な立場との差別化。
”土地に根差す土着的・素朴な佇まいで懐かしさを感じる空間” と、
”訪れる人に 期待 - 感動 - 余韻 を与える非日常的な空間”
この相反する事柄を約30坪の空間に創造しました。
-はじまり-
-敷地を解く-
-熱環境-
閑静な住宅地。
公園の遊歩道が隣接しており緑が溢れる敷地に建つレンガ造りの住宅。
今回の敷地は建主様が35年前に住んでいた土地だという。
長く離れていたこの土地に改めて住宅を建てることを決めた建主様のご依頼は終の棲家の設計だった。
当時、植樹した木々が生い茂っていた。
何か物語のようなものを感じ、残っていた木々も設計に組み込むべきだと考えた。
残存する木々・遊歩道との関係性・敷地の方向性...
現地調査や図面検討によって敷地の要素を拾い出していく中で、
敷地との融和性に重点を置く計画となった。
建築の形態が周囲と調和するようなディテール、
建築と周囲環境との関係性を活かした内部空間とする為、
観察と模型やデータによる検証を重ねた。
まず一本の桜の木を見通せるよう土間を配置する。
土間を基点に、導線や採光を考慮し内部の空間構成がつくられていった。
庇は冬至の日射がリビングの奥まで届く最低限の高さとし、
プロポーションを抑えることで地面との繋がりをつくる。
地を這うような佇まい。
敷地に対して南東方向に庭を取ることで敷地内に光を落とし込む。
室内と庭のあいだにはウッドデッキを差し込み、内外を緩やかに繋ぐ。
明るく開放的な庭を介し、その奥に続く遊歩道・公園の木々の緑が繋がり、
室内からは奥行き感のある景色を望むことができる。
外壁のレンガは庭や遊歩道の緑との視覚的対比を生み、相互の美しさを際立たせる。
建築を取り巻く周辺環境と、その建築が周囲に与える影響。
双方の目線で何度もフィードバックを繰り返し、ひとつひとつ丁寧に紐解いていった。
その集合体によって ”大麻の家Ⅱ” ができた。
[ レンガ ]
室内の熱環境について考える上で、
外壁に採用したレンガという素材の持つ蓄熱効果に着目した。
重厚でぬくもりを感じさせる質感も重なり
内部の土間壁面仕上げにもこれを使うこととした。
レンガは日射を集熱、蓄熱、それを穏やかに放熱する。
玄関からの冬の冷気が居住域へ流入しないよう冷気止めに。
夜間もゆっくりと放熱を続け、朝までじんわり暖かい。
心地の良い熱環境が冬の暮らしを優しく包み込む。
[ 庇 ]
庇の高さを抑え、軒下部分に十分な奥行きを取る。
これにより太陽高度の高い夏は直射光の入射を抑え、
庭に落ちたやわらかな拡散光を取り込む。
反対に太陽高度の低い冬は庇に遮られることなく
室奥まで日射が届き暖かな日が差す。
夏は太陽の熱を遮断、冬は積極的に取り込む。
室内の熱環境を冷暖房機器の性能のみに委ねず、
建築的手法を用いて室内外の環境に寄り添う方法のひとつ。
土間
車庫
住居部分
室内→ウッドデッキ→庭→公園
緩やかに内部と外部を結ぶ。
庭
遊歩道
遊歩道
デッキ
土間の先に桜の木が立つ
冬 春 夏